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2022年9月20日更新

コミット銀座【2022年度版】経済から見る高級時計相場 ~前編~

今回はタイトルにもある通り、前後編の二部に渡って、コミット銀座(以下:当店)の主観による“経済から見る高級時計相場”をお送りしていきたいと思います。

2019年12月、中国:武漢市でのコロナ感染が報告されてから早2年。世界的にコロナウイルスが蔓延し、経済活動が制限され、生活面でも多くの規制が敷かれました。この大不況に対して、世界各国の政府はお金をばら撒き、2020年1月から世界中のマネーの総量が約1.6倍に増えているとも言われております。

このコロナ禍がいつどのような形で終息するのかは誰にもわかりませんが、どうやら、この金融緩和が実物資産の高騰に大きく関係していることは間違いなさそうです。

一体どういうことなのか!?出来るだけ分かり易くご説明していきますので、是非とも最後までご覧になってください。

【目次】
◆ 2020年初頭からの高級時計相場
◆ リーマンショック後から読み解く為替と国内物価の関連性
◆ 国内の株式市場でも実勢はドルベース
◆ 需要と供給のバランス
◆ 価格の下落と上昇について
◆ 日本人の多くが資産=「現金の日本円」を中心に考えている
◆ 腕時計の購入は単なる相対取引
◆ 実物資産としての腕時計の立ち位置とは
◆ まとめ

2020年初頭からの高級時計相場

2020年初頭からコロナウィルスの拡大により一時的に世界株安に繋がりましたが、その後、世界的に株式相場も高騰して世界各地で最高値を更新しております。経済が回らない中、株価の上昇だけでなく、不動産、アート、高級時計と多くの実物資産も高騰しているのが現状です。

ですが、本当にそれらが上昇しているのでしょうか?最近になって「インフレ」という単語を耳にするようになったと思いますが、「インフレ」は「お金の価値の下落」の事です。世界各国でお金を増刷しすぎたら当然「インフレ」となります。

もう少し詳しくみていきましょう。

リーマンショック後から読み解く為替と国内物価の関連性

世界で金融や商品が取引される基軸通貨はUSドルであり、高級時計とUSドル相場には重要な関係性があります。皆さんの記憶にも新しい2008年のリーマンショック後の数年間は、1ドルあたり70~80円台まで円高になりました。

まずは『デイトナ』「Ref.16520」を題材に説明していきます。

その当時、『デイトナ』「Ref.16520」は海外で約10,000ドル程度で取引されていました。日本円に換算すると80万円前後。輸入消費税を加算した90万円辺りが、ちょうど国内流通相場と同じでした。その後、2012年に安倍首相が就任し、アベノミクス政策にて為替が120円台に乗ると景気も少し回復基調となり、海外では約10%程度の値上がりを見せ、11,000-12,000ドル付近で取引がされるようになります。為替が円安となり1ドル120円になると、換算して150-160万円にもなります。

10% ほどの値上げ”1.1倍”が、為替の関係によって日本円にすると”1.6倍~1.8倍”のギアが効いております。実際はそこまで値上がりはしていないにも関わらず、こういった外部要因で値上がりしたと感じてしまう事も少なくないのです。

国内の株式市場でも実勢はドルベース

アベノミクス政策で日経平均株価が3倍になったと言われておりますが、為替が80円から120円へと円安になっている効果もあり、海外の投資家がUSドル建てで日経平均株価を見ていると、同じくそこまで上がっていないのです。

「日経平均8000円(1ドル80円)→USドル建て日経平均100ドル」
⇩3倍の価格に⇩
「日経平均24000円(1ドル120円)→USドル建て日経平均200ドル」
ドル建てだと2倍!!

国内株式市場取引高の過半数は海外投資家の為、上昇幅を考える際にはドル建てで考えるべきです。このような矛盾に気付いているアナリストの方も多くはおりません。

※日本国内では、日本円という現金を中心で考える習慣があり、その数値に固執してしまっております。そして、その日本円に換算した後の数値が上がったり下がったりすることだけを気にしていると、マクロで判断できなくなってしまうと思います。

アベノミクスとは?
アベノミクスという名称は、安倍首相の苗字にエコノミクス(経済)を合わせた造語で、1980年代にアメリカのレーガン大統領が取った経済政策”レーガノミクス”にちなんだもの。金融緩和とインフレターゲット、公共事業の活性化、経済的イノベーション、財政健全化の”4本の矢”を主軸としていました。

需要と供給のバランス

デイトナ』「Ref.16520」を例に話を続けますと、2015年辺りから相場が上がり始めました。最終型番のPシリアル、その次にAシリアルが特に人気となっていきます。こちらは、ルミノバ文字盤です。個体の絶対数という意味で、交換されても手に入るルミノバダイヤルよりも、二度と手に入らないトリチウムダイヤルに価値が付いていきました。

ロレックス】はオリジナルパーツが重要視されるので、交換してしまうと手に入らなくなる希少性が評価されていると思います。現在、『デイトナ』ポールニューマンは2,500万円以上の相場とされ、コンディションを含めレア個体になると数億円するものもあります。

レア=”数が少ない”といえば『ミルガウス』「Ref.6541」や『デイデイト』オマーンダイヤル等の個体数は、『デイトナ』ポールニューマンよりもはるかに数が少ないにも関わらず、値段はポールニューマンの方が圧倒的に高いです。これは、希少性という絶対数的な価値が加味されつつも、需要と供給のバランスの結果と言えるでしょう。

また、余談ですが、既に廃番となっている「Ref.16600」の『シードゥエラー』は、全世界に数十万本というような単位で現存しております。そのうち”COMEX”のダブルネームは300本しか存在しません。比率でいうと1,000分の1以下のレア度です。「Ref.16600」『シードゥエラー』のきれいな個体だと100万円以上しますが、”COMEX”は1,200-1,400万円が現状の相場になっております。とても高額ですが、1,000分の1のレア度からすると通常の個体の12~14倍の値段なのは少し割安な気もしてしまいます。

価格の下落と上昇について

時計の相場というのは、金額が上がったor 下がったと言われていると思いますが、日本円を基軸に金額を見てしまっていると、実際の価値は測定できません。前章でお伝えした話です。

100万円で買った【ロレックス】が90万円になったと、単なる値下がりと受け止めるのではなく、同じ【ロレックス】が、以前は100万円出さないと買えなかったのが、今は90万円で買える。【ロレックス】は同じ物なので、同じ物を買うのに少ない額面で買えると言うのは、”日本円”の価値が上がったとも言えます。やはりそのような際は”株”や”金融商品”も同時に比例していることが多く、そうなると90万円出せば以前の100万円分の株を買うことができます。

高級時計の相場は世界相場です。そして”USドル”を基軸に相場ができております。要するに【ロレックス】を保有することは、”USドル現金”を保有すると考えても良いでしょう。”ゴールドの地金”も同じ話です。USドル現金を保有しているとも言えます。

時価100万円の【ロレックス】を保有していて、為替が110円から100円に10円分円高になった場合、確実に時価が91~92万円に近づきます。時計相場は、為替相場が変動してから2~6ヶ月程度遅れますので、急円高の際は”売り時”でもありますし、逆に円安に大きく振れれば、絶好の”買い場”とも言えます。これらの話も”日本円を基軸として考えた場合”になりますが。

日本人の多くが資産=「現金の日本円」を中心に考えている

日本円=”現金”もひとつの資産ではありますが、国内でしか使えない資産でもあります。日本人からすると、ブラジルのレアル、ロシアのルーブル、中国の元紙幣をみても、1万円札と同様の”高額紙幣だ!”という認識はなく、悪く言えば単なる紙切れにすぎないでしょう。1万円分の他国の見たことのない紙幣を、2,000円で買えるといっても買いますでしょうか?逆にブラジル・ロシア・中国の人々も、日本円の紙幣をそういった見方でいると思います。

昨今のグローバルなワールドマーケットにおいては、各国の輸入商品の差が無くなってきているのが現状です。

約10~15年前の話ですが、『デイトナ』「Ref.16520」のステンレスモデルは、やはり大人気でした。その時、国内相場は100~120万円程。一方で、当時不人気であった同コンビモデルの「Ref.16523」は、定価がステンレスモデルより高いにもかかわらず、60~80万円程度で売られていました。海外ではコンビモデルとステンレスモデルの相場は同じくらいであったため、外国人たちは安い日本で購入し、持ち帰って本国で売り、利ザヤを稼いでいたと思われます。

今ではインターネットが普及し、そういった価格の差も世界中でほとんどなくなったと言っても良いでしょう。要するに、高級時計の現状は世界で価格がほとんど均一とも言えます。しかも大半の価格の基準はUSドルベースです(高級時計は世界的にUSドルで価格が形成されており、そこから各国の通貨で換算されて販売されています)。

腕時計の購入は単なる相対取引

高級腕時計は”USドル”、”アート”、”美術品”、”金・地金”等と同様に世界各国で”資産”として認められており、どの国でもグローバルに価値を認められております。
世界の各国では、日本円の現金100万円の札束よりも、100万円相当の【ロレックス】の方が価値があると認識されているわけです。

100万円、500万円、1,000万円する【ロレックス】や【パテックフィリップ】を購入するという行為は、日本人ならばほとんどの方が悩み、考え、買う”決断”をすると思われます。中には即断する方もいますが。しかし、よく考えてみてください。世界各国で価値が高いのは日本円よりも高級腕時計。価値の高い物に同等資産の移行をする行為に悩みはいらないのではないでしょうか。

海外旅行で100万円を使ったり、高級クラブで100万円のワインを飲んだ。それらは贅沢な体験の購入と考えられます。一方で、100万円の高級腕時計を買う行為は、単なる相対取引で
等価交換したと理解できます。飲食や娯楽でお金を使う行為とは完全に異なるのです。

そして、普段使いした後の売却時には、買った金額よりも高くなっております。儲かる物、数倍になる個体も少なくありません。
※詳しくは、コチラから買い戻し率の記事をご覧ください。

実物資産としての腕時計の立ち位置とは

高級腕時計も”アート”、”美術品”、”金地金”、”プラチナ”、”ガソリン”等と同じくUSドル建て評価となります。例えば【ロレックス】が2万ドルだとすると、それはあくまでUSドル資産なので、USドルを2万ドル保有している、もしくはUSドル定期預金をしているといっても過言ではありません。もちろん円高になれば、日本国内での日本円換算価値は下がりますし、円安ならば逆になります。

そこは気にせず、USドル建ての金額だけ考えておけば良いと思います。USドルは基本的に金利のつく通貨です。金利のつく通貨は総マネー量が膨張します。すると1ドル辺りの価値は年々下がるものです。インフレターゲット2%とか言いますが、2%上がると翌年102%になり1万円の価値が約9,800円になると言う話です。よく外貨預金、外貨投信等は為替の変動で元本割れリスクがあると言いますが、そこがリスクとは関係ないとお分かりだと思います。リスクはそこではないのです。日本円の額面に固執しないことが大切です。そもそもマネーは増刷されている以上、減価していくものと考えるべきです。

1ドルが110円ならば220万円、100円ならば200万円、90円ならば180万円になります。ドルを持つことは、更には資産分散の意味もあり、高級腕時計は所有して楽しめるというポイントもあります。もちろん落としたり、盗難されてしまったりするリスクもありますが、時計の種類や条件を考えれば、USドルベースで年々資産は上昇していると考えられるでしょう。その期間を3年、5年、10年、20年、30年とくくっても、今までは各々上昇しているのです。

世界的にも代表的な実物資産と言えば”ゴールド”、すなわち”金”ですが、ゴールドや腕時計は実物資産であり、その物自体は増殖はしませんし、金利も生みません。しかもユーロ圏はマイナス金利ですから、ゼロの方が上になります。

世界経済が順調なときは、株や利回りのある金融商品が買われ、いわゆるリスクオンと言われる状態になります。その場合、リスクを取り、お金を増やす戦略がとられ、実物資産”安定資産”のゴールドは買われません。逆に経済が不安定になるとゴールドのような安定資産や、リーマン時、今回の経済ショックのように現金”USドルや日本円”が買われます。そしてリスクオフの安全資産として債券が買われ金利が下がるのです。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

前編では腕時計と経済の関係性を実際の値動きを基にお話し致しました。ドル建て資産である高級腕時計は為替の影響を受けますが、”アート”や”美術品”などと同様に実物資産として認識され始め、需要は年々上昇してきています。

では一体、今後の腕時計の価値がどうなっていくのか?という点は後編でお話しできればと思いますので、是非お楽しみにお待ちください!

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